Steamゲームを全てクリアすると決めた男の果てなき挑戦、「不可能だったとしても楽しければそれでいい」

シーズンセールで大量に購入したゲームのほとんどが未プレイのまま埃を被っている“積みゲー”状態は、Steamユーザーの誰もが経験しているのではないだろうか。数千本のゲームを溜め込んでいるユーザーはもはや一生を費やしても全てを消化しきれないかもしれない。そんな中、これまで購入した1400本以上のゲームを含め、Steam上のタイトルを全てクリアすると決心した男の果てなき挑戦が、海外フォーラムを中心に脚光を浴びている。これまで幾度もスレッドで現状を報告してきた謎のチャレンジャーが、業界メディアEurogamerのインタビューに対して口を開いた。

 

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無理

Steamに現存する全てのタイトルのクリアを目指すプロジェクト“Finish all Steam games”に2012年から取り組んでいるのは、ノルウェーに住む30代のRedditユーザーMultitasker氏。これまで十数年で1413本のゲームを購入しており、そのほとんどがクリアできていない状態だという。8回目となる今回の報告で、その内283本を消化したことを明かしている。所有タイトルの2割を達成したことになるが、Steam上には現在3500本以上のゲームタイトルが存在し、リアルタイムに毎週増え続けていることを忘れてはならない。つまるところ、この企画はハナっから不可能なのである。もちろん、Multitasker氏もそれを承知の上で挑戦している。「不可能だったとしても楽しければそれでいい」という彼の勇姿にエールを送る者は後を絶たない。

Multitasker氏のSteamライブラリ
Multitasker氏のSteamライブラリ

こんな無謀な試みに挑戦する人間はさぞ時間を持て余した高等遊民だと想像するかもしれないが、Multitasker氏はITコンサルタントとして勤務しながら妻と子供を支えるゲーミングパパである。仕事や子育てに従事する生活でゲームに費やせる時間は平日でせいぜい2時間程度。日々の活動において二の次だという。ちなみに奥さんは現在二人目の子供を妊娠しており、出産後はゲーム時間がさらに短くなると見込んでいる。「友人は私のことを何かの企画に携わってないと気がすまないようなやつだって言いますが、確かにいつも何かしていますね。ただ座ってぼけっとテレビを観ているようなことはほとんどありません。もっとアクティブに従事できるゲームこそ、そんな私のエンターテイメントとしてぴったりなのです。自分のために費やす時間のほとんどはパソコンの前にいますね」。

「ソファーにケツを埋めてテレビの虜になっている暇があったら、ラップトップでレイダーを撃ち殺したり外国の兵士を風船で捕まえたりしていますよ。週15時間から16時間ですが、その時々によって変わります」と語るMultitasker氏。テレビはいつも奥さんに占拠されているために、ダイニングテーブルでラップトップを使うしかないとのことだ。愛機はASUS G751JT。あまりに酷使し過ぎたせいでWキーをこれまで3回も付け替えたという。なお、アカウント情報からゲームに費やした総額を算出できるSteam Calculatorによると、彼は十数年で1万5千ドルを散財したことになる。しかし、セールや鍵屋で安価に入手できるタイトルも多いことから、本人いわく実際は3分の1ほどのコストに収まっているようだ。

 

浮気しないために

“Finish all Steam games”という終わりなき旅路を歩む上で、Multitasker氏にはいくつかの自分ルールがある。積みゲースパイラルから抜けられないスチーマーの特徴の一つが、あれもこれも少しかじって複数のタイトルを行ったり来たりする浮気性だ。序盤を数分プレイするだけのプレイボーイにならないために、同時に進めるのは3タイトルまでと制限している。一つクリアするごとに次のゲームをインストールしていく。また、これまで好んでクリアしてきたゲームの大半は『S.T.A.L.K.E.R.』や『Fallout 3』『The Elder Scrolls V: Skyrim』『Half-Life 2』『ファイナルファンタジーVII』といった著名タイトルだが、進行中リストの少なくとも一つは内容をほとんど知らない掘り出し物を用意するのだとか。大食い企画の最中に食べるお口直しのアイスクリームみたいなものだろう。

なお、Multitasker氏は“Finish”(ここではクリアもしくは消化と表現する)の定義をエンドクレジットが流れた時点としている。ゲームコンテンツの達成率にはこだわらない方針だという。「画面にクレジットロールが流れたらゲームをクリアしたとみなします。全てのアチーブメント獲得やサイドクエスト攻略、マルチエンディングを網羅しないとゲームクリアとはいわないと主張する人もいます。しかし、ファイナルファンタジーVIIで99,999,999ギル貯めるためにプレイ時間を倍にしたところで、ゲームに付加価値を与えるとは思えません。サイドクエストを一つやり残したからといってどうということはないでしょう。BethesdaのRPGは私がつい長時間を費やしてしまうゲームの最たる例です。それでも出くわすサイドクエストはDLCを含めて大抵全部クリアしますよ」。

一方で、『Dota 2』や『Counter-Strike』のようなマルチプレイヤーにのみに焦点を当てたタイトルは、何をもってゲームを消化したとみなすのだろうか。一人用のRPGやFPSのキャンペーンモードと違い、エンドクレジットが流れた時点という完了の定義が適用できない。Multitasker氏はこの問題を“ひとまず保留”にしている。山積するシングルプレイヤータイトルを全て消化するのが優先事項だが、Steamゲームは日々無尽蔵に増え続けている。つまり永遠にプレイすることはないだろう。

 

積みゲーの系譜

ゲームクリアと一言しても、単に時間をかければクリアできるものがある一方で、謎解きが難解なパズルジャンルや、攻略過程が異様にわずらわしいクソゲーも存在する。その昔「成功確率 無限大数分の1」と謳われた『たけしの挑戦状』のような伝説級の強者に直面した日には心が折れそうになるはずだ。Redditのスレッド内で、プレイに着手してとてつもなく後悔したタイトルはあるかという質問が投げかけられた際、Multitasker氏は2009年に発売されたアドベンチャーゲーム『Fatale』を挙げている。「存在しなければよかったのに。あの忌々しい産物よりDVDのメニュー画面の方がよっぽど夢中になれる」とのこと。自分ルールの掘り出し物から飛び出したとんだ災難だったようだ。

『Bad Rats: The Rats' Revenge』
『Bad Rats: The Rats’ Revenge』

また、同年に発売されて以降ある意味カルト的な注目を浴びているパズルゲーム『Bad Rats: The Rats’ Revenge』にも言及。Steamのレビュー欄で「ゲーム本編よりレビュー欄の方が面白い」といった皮肉や、「私の自尊心がワールドトレードセンターより一瞬で倒壊した。9/11」という不謹慎なコメントであふれた伝説の曲者だ。この作品も例に漏れず足を引っ張っているらしく、未だクリアにはいたっていないとのこと。往々にしてトライしてはいるが、退屈極まりないことから完了するまで途方もない時間がかかるだろうと説明している。

Multitasker氏が“Finish all Steam games”に挑み続ける理由は、決して不可能を可能にするためではないのかもしれない。同様に、人々が彼を応援し続けるのも前人未到の快挙を期待してのことではないだろう。Eurogamerが“オンラインの個人的な旅行”と表現しているように、その本質は彼がデジタル世界で過ごした長期旅行を永遠の記憶として残すことではないだろうか。このままいけば彼は半世紀以上経過した後も老いてなおゲームをプレイし続けているのかもしれない。それは一重にゲームが好きだからだという。「好奇心をかき立てる物語や自分を引き込んでくれるゲーム体験というのはほぼ尽きることがありません。見事な世界観を創造している才能あふれるデベロッパーは数知れない。それらを冒険して肌で感じるのが待ちきれないのです」。

また、これまでの軌跡を目に見える形に残せるよう、Multitasker氏は自身のプレイスルー動画を投稿したYouTubeチャンネルも立ち上げている。同氏は作品がいかに世に出されたかといった開発秘話にもゲーム本編と同様の価値を見出しているとのことで、「早期のプロトタイプ、体験版、ベータ版、お蔵入りの作品など、全てが書籍の原稿や交響曲の初期バージョンのような歴史の欠片です。これらはゲーム開発において非常に興味深い部分でもあります。いつの日か、それをドキュメントとしてまとめて私のチャンネルに飾れればいいですね」と、ゲーム愛を具現化することへの意気込みを語っている。

そびえ立つ積みゲーの山を登る果てなき彼の冒険はこれからも続く。その先で彼は何を見るのだろうか。人生が終わるまでの有限の時間で、果たして彼は何本のゲームをクリアできるのだろうか。もしかしたら将来、成長した彼の子供たちが父の意思を継いでやり残したゲームを消化する日がくるのかもしれない。積みゲーという名のゲームは一生終わらない。

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