KINGDOMはなぜLJL出場停止となったのか 選手と運営の両者に問われるプロフェッショナリズム


2月15日、PCゲーム『League of Legends』(以下『LoL』)の日本プロリーグであるLJLの公式サイトにおいて「LJL CS予選ならびにCS開幕戦に関してのご報告」とするページが掲載された。

その内容はLJLの本戦出場を目指す下部リーグ「LJL Challenger Series」(以下CS)において、2月4日実施の予選Round1で「Dragonfly Gaming」と「SCARZ」の2チームに違反行為があったこと、またその違反行為に関連して、CSに参加している別のチーム「KINGDOM」から意図的な情報漏洩が発生したこと、これらの事態の収拾のため、開幕日程を1週間延期することを告知するものだ。とくにKINGDOMに対しては「公開禁止情報の意図的な漏洩」によるCS出場停止という重い処分が下され、これを受けてKINGDOMは自らのサイトで無期限の活動休止を発表している。

すでに他のゲームメディアでもこの件を報じる記事が掲載されており、同時にネット上でも意見が噴出している。最もシンプルな(それだけに広まりやすい)リアクションとしては「LJLで替え玉事件が発生した。それを告発したチームが運営から出場停止にされた。こんなことは許せない」というものだが、はたして実際に起きた違反とそれに付随する情報漏洩、そして運営側の下した裁定とはどのようなものだったのだろうか?

本記事では不確定な情報や感情的な意見に左右されないために、LJL公式サイトに掲載されている2つのドキュメント、

 

・「LJL CS予選ならびにCS開幕戦に関してのご報告」(2月15日掲載)

・「LJL2016年シーズン公式ルール
(バージョン1.0 ; 2016年1月16日版)

 

またCS参加チームであったKINGDOMの公式サイトに掲載された2件の投稿、

 

・「LJL CS予選について」(2月13日掲載)

・「活動休止」(2月16日掲載)

 

上記あわせて4つの、2月17日現在誰にでも閲覧できる情報ソースだけをもとにして、この混乱した状況を整理していきたい。読者諸兄にはいくぶん手間を強いることになるが、できれば上記のページを同時に参照しながら本稿を読み進めてもらえると大変ありがたい。

まず注意しなければならないのはLJLの「ご報告」に書かれた下記の内容、

 

(1) CS予選Round1にて発生した違反行為
Dragonfly Gaming(以下DFG)による予選Round1時の参加選手による海外アクセス
SCARZ(以下SZ)による予選Round1時の参加選手による海外アクセス
(2) CS予選Round1以降に発生した違反行為
KINGDOM(以下KNG)による公開禁止情報の意図的な漏洩

 

上記2つの違反はまったく別個の問題だということだ。もちろん当事者間の感情としては、(1)があったから(2)が発生した、という流れなのだろうが、ここを混同してしまうと「不正を告発したチームが出場停止になった」という一足飛びの早まった納得に至ってしまう。

順を追って見ていこう。

(1)は2月4日のオンラインによる試合において、Dragonfly GamingとSCARZの2チームが海外IPアドレスからのアクセスを行っていたこと、それに伴ってDragonfly Gamingが選手の替え玉を行ったのではないか、という他チームからの申し立てに対し、LJL運営が裁定を行っている。

この裁定のなかでLJL自身が記しているように「事前にVPNの使用禁止について周知できていなかったこと」はLJL側の落ち度であるし、海外IPアドレスからのアクセスに関してはレギュレーションの改正が行われてしかるべきだろう。春に予定されている日本サーバーの稼働を待ってCSのスケジュールを組めなかったのか、と思わず言いたくなるが、本筋から外れてしまうのでここでは止めておく。

ただこの件に関して補足するならば、

 

「事前に同チーム(AUTOMATON補足:Dragonfly Gaming)からの問い合わせに対し、個別に海外からのアクセスが禁止である旨を通達していた上で海外IPアドレスからの接続が確認されたため、上記処分としております。」

 

とも説明されており、海外IPアドレスからのアクセスがルールブックに明文化されてはいないが禁止であることは少なくともDragonfly Gaming側に事前に伝わっていたと読み取れる。

さらにこの違反に付随して、Dragonfly Gamingが海外IPアドレスからアクセスしただけでなく、同時に選手の替え玉を行っていたのではないか、という疑惑が上がった。これに対してLJL運営側は、

 

「替え玉行為に対してはDFGへの聞き取り調査に対して、替え玉行為の否認並びに第三者的に判断出来る証拠が無い事を考慮し、厳重注意処分としております。」

 

と発表した。オンラインで試合を行う以上、PCの前に誰が座って操作しているのかを厳密に突き止めるのは確かに困難な話だ。また同時にその不正を防ごうとして全試合をオフライン行うことも現実的ではない。Dragonfly Gamingとしてはレギュレーションの不備を突いてでも勝利の可能性を高めたかったのかもしれないし、そうでなかったのかもしれない。海外のLoLプロシーンを見渡しても、規定違反とその処分は何度も起こっていることであり、違反を防ぐためのレギュレーションの整備は、長期的なトライアンドエラーを積み重ねていくしかないのだろう。

これら(1)の違反に対して最終的には当該選手の2試合出場停止という処分となったが、他チームのKINGDOMが公開した、2月7日時点でのLJL運営からのメールでは「(AUTOMATON補足:Dragonfly Gamingを)CS本戦の出場資格のはく奪処分といたしました。」と異なる内容が記載されており、対応面で混乱があったことがうかがえる。ルールを守っているチームからすれば「他チームがルールを破って、出場資格のはく奪まで通達されたはずなのに、軽い処罰だけでやり直しになるのか」という感情を抱くのは自然な流れだろう。運営側の初動の混乱が後に触れる(2)の違反行為の火種となった状況が読み取れる。

2月4日に発生したとされるこの替え玉疑惑に対して、LJL出場を競うライバルチーム、言わば(1)の件に関しては被害者側に立つKINGDOMのゼネラルマネージャーの児玉氏は「LJL CS予選について」と題した投稿をKINGDOMの公式サイトで発表し、こう記している。

 

「やりとりの中で証拠がほしいと言われ以下のDFGマネージャーとのSkypeチャットログを(AUTOMATON補足:LJL運営に)送りました。(中略)
このチャットログはDFGが替え玉を認めているものだと思いましたが、運営は『DFGが否認しているため』証拠と断定できないという判断でした。
(AUTOMATON補足:Dragonfly Gaming側が)ルールを犯し、虚偽の報告をしているように思えてなりません。」

 

ただ、これが証拠と断定できない以上は「思えてなりません。」というのはやはり氏の主観でしかない。疑わしきは罰せず、というのが法社会の前提であるし、実際に替え玉が行われていたかどうかはともかく、今回の一件でDragonfly Gamingが負った世間からのマイナスイメージは「海外アクセスを行ったDFG Sebun選手の予選Round2の2試合出場停止」という実際のペナルティよりも、はるかに重いものだろう。考え方によっては当初出た処罰、CS本戦の出場資格のはく奪処分より重いかもしれない。

逆にもしこの替え玉疑惑が疑惑でしかなく、事実でなかったとしたら、KINGDOMはDragonfly Gamingの名誉を著しく傷つけたことになる。ここに違反行為に直面した当事者の感情と、それに対して運営側が下す裁定の難しさが存在するわけだが、いずれにせよ今回の件を通じて傷を深くしてしまったのは、KINGDOMの児玉氏が「勝手ながら私は覚悟を決めて今回の発表にいたりました。」として2月13日掲載の投稿「LJL CS予選について」を外部に向けて掲載したからにほかならない。

ここから話は(2)のKINGDOMの違反行為に移る。

なぜならこの上記の投稿内容はLJL公式ルールを破る情報漏洩にあたるからだ。「情報漏洩」という言葉では、意図せずに漏れてしまったようなニュアンスがあるので、本記事ではあえて言い換えるが、要は守秘義務違反だ。KINGDOM側の2つの投稿を読み進めるとわかるが、LJL運営側からCS参加チームに送られた「予選Round2に関するご連絡」というメールのなかで(そもそも内部のメールを公開した時点で問題なのだが)LJLの運営は、

 

「今回の処分並びに予選Round2、本戦日程などについては公式サイトにて公開いたしますのでそれまで情報の公開は行わないようお願いいたします。」

 

とCS参加チームに伝えているにもかかわらず、その公開を待たずに投稿では「スポンサーに断わった上で独断で発表」している。しかも2チームの違反行為とその処分を運営が不正に揉み消そうとしたわけでもなく、LJL側が「公式サイトにて公開いたしますので」と説明しているにもかかわらず、それを無視して他チームの違反行為への疑惑を、かなり主観的な論調で外部に公表してしまった。このこと自体が重大な守秘義務違反であり、大きな勇み足だ。ほかにも児玉氏は、

 

「(AUTOMATON補足:LJL運営スタッフの)SANKO社員Aが電話で対応してくる。終始かなり高圧的な態度で、予選のやり直しが不満なら証拠を出せと言ってくる。」

 

と述べているが、この会話が録音でもされていない限り、実際に「かなり高圧的な態度」であったかを客観的に判断するのは難しい。続いて、

 

「SANKO社員A『発表はまた後日お知らせします。それは構いません。そちらが勝手にやるのであれば止めれないです。』」

 

というやり取りで許可されたので、KINGDOMのサイト上で不特定多数に向けた今回の告発文を発表したとしているが、このSANKO社員Aの発言が事実だったかを争点にしても、結局は言った言わないの水掛け論になるだけだろう。この印象どおりだった可能性もあるし、逆に氏の感情を反映して、事実とはかけ離れてしまっている可能性もある。SANKO側の対応がどこまで常識的だったのかは不明だが、事実として揺るがないのは、LJLの守秘義務を違反した2つの投稿が、現時点でもKINGDOMのサイトに掲載されたままだということだ。

もちろん児玉氏本人の感情としては、他チームの違反行為の疑いと、それに対するLJL運営への不満を募らせた上での義憤であろうし、またLJLの本戦出場を賭けて必死に奮戦しているチームメイトを思うがゆえの行動だったのだろうが、当時まだ調査中である違反行為の糾弾を、LJL公式ルールから勝手に逸脱して行ったため、結果それがKINGDOMの出場停止、ひいては無期限活動休止という残念な結果まで招くことになってしまった。

 

「大会運営はルールも作れますし、変えれます。神様のようなものです。なのでどのような処分が来ても納得するつもりでしたし、しています。」

 

と児玉氏は述べているが、同じ投稿内においてさらに守秘義務違反を重ねた内容が記されており、納得しかねる気持ちが残っていると受け取るのが自然だろう。結果的には「違反行為である漏洩情報の削除勧告に対し、建設的な態度が見受けられず」というLJL側からの勧告内容を、自ら裏付ける形となってしまっている。児玉氏はLJLの処分に対する思いとして、

 

「私たちマネージャーという立場にある人間が、大人が、若いゲーマー達にルールを守ること、ゲームをして過ごしていく中で必要なことを教えていくことこそ今のe-sports業界に必要なことではないのでしょうか。」

 

と訴えているが、この言葉を自らルールを破った場で絞り出さなければならなかったのは皮肉なことだし、意義を申し立てるにしてもほかに方法があったのではと思わずにはいられない。

こうした状況を少しずつ慎重に読み解いていくと「LJLで替え玉事件が発生した。それを告発したチームが運営から出場停止にされた。こんなことは許せない」という論調と、発表されているオリジナルの内容とのズレが明白になってくる。今回の記録を読み込むとルールを破ったのはKINGDOMの側で、LJLはKINGDOMに対して「ルールを守れないなら参加は認められません」と言っているにすぎない。

KINGDOMの投稿内容に賛同する意見が多いのも、感情的には理解できるが、プロリーグという一定の枠組みのなかで競技に参加する以上、すべての参加者が運営の定めたルールを守るべきなのは自明のことだ。そのルールに不備や不満があったとしても、運営自体をぶち壊すような行動に訴えては、元も子もない。運営が事態の収拾を図ろうとしているところに、独断による守秘義務違反を行っては、より大きな混乱を招くことは火を見るより明らかだ。「運営が事態を収拾させている」と「運営が不正を揉み消している」は違うものであり、今回の問題に対してLJL運営は最初からすべてを明らかにするべきだった、そうでなかったから外部に告発した、というのはやはり乱暴な理屈だ。

児玉氏自らが運営側の発言として記しているように(もっとも実際はどこまでこの文面通りだったかはわからないが)「気持ちはわかるが、DFGとScarZをわざわざ一般に叩かせるような内容は公表できない。する必要はない。疑いがあるから叩かせろっていうのか?」という主旨の発言を仮にLJL運営が行っていたとしても、このルール違反が調査中だった以上は常識の範囲内での対応だ。今回の件でKINGDOM側に正義があるとするならば、それは警察と司法を無視し、被害者が勝手に犯人を断定して私刑を行ってもよいことになってしまう。それはルールのある競技=法治国家とは言えないだろう。

またもし対戦相手の不正を私的に告発した今回のKINGDOMの行動がおとがめなし、あるいは軽い罰則のみで済んでしまうとしたら、そのルール内ではとにかく不正の種を見つけて、試合以外の方法で相手を告発して蹴落としてしまおう、という極端な悪用までが今後通ってしまうことになる。Dragonfly GamingとSCARZの違反処分に比べて、KINGDOMへの処分が出場停止という厳罰に至ったのは妥当性のあることだ。

進行中の問題についての記事だが、そろそろ一度締めておきたい。

今回の一件は図らずも、日本のe-Sportsシーンもその参加者も未熟な一面があることを示してしまった。ゼネラルマネージャーというチームで最も手綱を引かなければならない立場の人物が守秘義務違反を行ったことがそれを象徴している。LJLがすでにプロリーグとしてライアット公認のもとで動いている以上、すでに学校の部活動や同好会のようなレベルでは収まらなくなっていることは関係者全員が肝に銘じなければならないことだろう。ルールを定めてそれを運用する運営側と、そのルールが適用される選手側が今回の苦い経験を活かさなければならないのは当然のことだが、それを外部から見守るしかない我々観客の側も心に刻むべきだ。この記事を読んでくれている読者のあなたが憶測や流言飛語に惑わされたのならなおさらだ。でなければ、

 

「今後このe-sports業界で似たような事故が起きない事、私のような未熟で身勝手なマネージャーにより振り回され続け、ルールを守り続けたKINGDOM所属の選手が少しでも報われる事を祈っております。」

 

と記した、児玉氏の嗚咽のような言葉のひとつひとつが無駄となってしまう。念のために記すが、今回の件でKINGDOMは確かにLJLのルールに違反したかもしれないが、社会的にはまったく何の罪も犯していない。ただLoLとそのプロシーンに情熱を注ぎ込み、その情熱が大きすぎたあまりに起こってしまった、ひとつのすれ違いの結果にすぎない。LJL運営にも、そして他の競技ゲームの運営に向けても望みたいことだが、競技ゲームをプロスポーツという枠組みで運営していくのであれば、選手たちの情熱をできる限り誠実に受け止め、彼らが試合だけに集中できる場を作ってあげてほしいと切に願う。

e-Sports、プロスポーツとは何なのか。ゲームプレイヤーを職業にするとはどういうことなのか。そして彼らをプロとして認め、その場を提供する運営は何をどう果たすべきなのか。非常に抽象的な言い方になるが、日本のプロゲームシーンを成長させていくためには、そこに参加し、関心を持つ我々ひとりひとりが今回の出来事を糧として、本当の意味でもっと「大人」にならなければいけないのだろう。