6月30日に大阪、7月14日に東京で開催される「Game Tools & Middleware Forum 2017」では、国内でも最大級のユーザーコミュニティを誇るUnityの最新情報が解説される。すでに日本のゲーム開発にしっかりと根を下ろしたUnityが、聴衆に対してどのようなメッセージを発するのか。同社の伊藤周氏に昨今の業界動向を踏まえつつ話を聞いた。

 

ゲーム・映像・遊技機と幅広い分野で使われるUnity

「ゲーム開発の民主化」を掲げるUnity。GlobalGameJamを筆頭にさまざまなハッカソンやワークショップで使用され、今やゲーム開発を学ぶ学生の必修ツールになりつつある。特に日本では販売とサポートを担当するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの尽力もあり、「ユニティちゃん」をはじめとしたユニークなマーケティング施策を展開。世界的にもユニークなユーザーコミュニティを作り上げた。この分厚いコミュニティの存在こそがUnityの最大の資産だといえるだろう。

一方でUnityのコアビジネスは商業ゲーム開発における技術サポートにあり、それは日本市場においても変わらない。国内ディベロッパーのUnity採用例はスマホゲームのネイティブアプリ化と共に進み、今ではランキング上位のゲームアプリで、最も採用例が多いゲームエンジンになっている。こうした現状を踏まえて、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの伊藤周氏はGTMFで聴講者に届けたいメッセージに「ハイエンドなグラフィックへの対応」と「マルチプラットフォーム展開」をあげた。

「ハイエンドなグラフィックへの対応」で引用されたのが、CGスタジオのマーザ・アニメーションプラネットとの共同制作タイトルで、5月に開催されたUnite 2017 Tokyoで公開されたCG映像『Ultimate Bowl 2017』だ。未来のアメリカンフットボールを題材とした50秒の作品で、フォトリアリスティックでハイエンドなビジュアルになっている。ただし「映像」といいつつ、実はプリレンダームービーではなく、リアルタイムレンダリングのデモである点がミソだ。

もっとも、ゲームと映画は同じ映像といっても水と油だ。それと同じように制作ツールにも向き不向きがある。もともとゲーム開発向けに制作されたUnityも、そのままでは映像制作に使い勝手の良いツールだとはいえない。そのギャップを埋めるために、『Ultimate Bowl 2017』ではUnityの映像制作向け機能「Timeline」と「Cinemachine」が活用された。伊藤氏は今回の講演中で、この活用法をデモを交えながら解説するという。

「Timelineは時間軸にそった映像表現に向く機能です。特定のタイミングで文字やエフェクトを表示させるといった演出が簡単にできます。ゲーム内で宝箱を開けるなどのイベント的な演出も、ゲームからムービーに映像を切り替えることなく、一連のシーンとしてスムーズに見せられます。これに対してCinemachineは、Unity上で絵コンテ主導の画作りを可能にする機能です。場所と画角を設定すれば、カメラの場所や角度を細かく設定しなくても、自動で調整してくれます」(伊藤氏)

Unityでゲーム開発経験があるクリエイターなら、言わんとすることがよくわかるだろう。ゲームは本来ユーザーの操作によって内容が変化するノンリニアな映像コンテンツだ。そのためUnityで映画的なコンテンツを制作するには、Aseet Storeから様々なアセットをインストールする必要があった。こうした機能が、今後はUnity側の公式機能として搭載されるというわけだ。先ほどの宝箱の例にあるように、映像業界だけでなくゲーム業界でも有効な機能であることはあきらかだろう。

ちなみに、この二つの機能については言葉で細かく説明しなくても、実際にデモを見てもらうとすぐに理解できる。そのためGTMFでの講演に最適というわけだ。そのうえ、『Ultimate Bowl 2017』のプロジェクトデータは近く一般公開が予定されている。デモで使い方のイメージがつかんだ後は、『Ultimate Bowl 2017』をサンプルデータに実際の活用例が確認できる仕組みだ。その中にはマーザの映像制作のノウハウが詰まっていることは言うまでもない。

なお、リアルタイムデモはゲームだけでなく、遊技機業界向け映像制作でも導入が進みつつある。背景にあるのが遊技機向け基板の性能向上と、求められる映像クオリティの向上だ。限られたROM容量の中で、より美麗な映像を制作するには、アセットの活用を効率化するしかない。そのためにはプリレンダームービーではなく、リアルタイムにアセットを組み合わせて映像を出力するやり方が求められる。ブースではAMD製の遊技機向け基板を用いたデモ展示も実施されるという。

実際にゲームエンジンをレンダリングエンジンとして使う動きは映像業界で着実に進みつつある。レンダリング結果が高速に得られるため、イテレーションを高められるからだ。2017年4月から放映が始まったTVアニメ『正解するカド』でも、突如地球に出現した巨大な立方体~カド~の表面に描かれた幾何学模様の表現にUnityが使用されている。伊藤氏は「映像業界でUnityがもっと活用されるために、どのような機能が必要か、本社としても強く関心を持っているところ」だとあかす。

Unityでハイエンドな映像表現が可能になることで、ゲーム業界が受ける恩恵も大きい。特にモバイルゲーム市場中心の日本では、今後もますます進行するハイエンド端末向けのアプリ開発に向けた対応策が求められる。モバイルゲーム市場の成熟化が進み、一作あたりの開発費が高騰を続ける一方で、ユーザーの目はますます肥えており、よりリッチで斬新なゲーム体験が求められている。慣れ親しんだUnity上でハイエンドなビジュアル表現ができるとあれば、どのスタジオも歓迎だろう。

ただし、開発負荷の増加はチキンレースの様相を呈している。こうした中で新たな可能性に賭けるスタジオも登場してきた。それがPCとコンシューマのマルチプラットフォーム展開だ。特に昨年から国内でも静かなブームを呼びつつあるのがSTEAMでの販売だ。ビジュアルノベルをはじめ、国内向けとされてきた一部のインディーズゲームが引き金となり、昨今では中堅から大手ディベロッパーのSTEAM展開が進みつつある。中には国内より数倍のセールスを記録するタイトルもある。

また、直近の例ではNintendo Switchでの展開も増加中だ。もともとNintendo Switchのアーキテクチャはスマートフォンと相性が良く、タイトルの移植もしやすい。UnityでもUnityでもNintendo Switchのサポートをいち早く進めており、本体のローンチ時には、Unityベースで作られたゲームが5本リリースされた。任天堂としてもインディゲームの国内サポート強化をNintendo Switchで表明しており、伊藤氏もリスク軽減のためには有効な施策でないかと語る。

業務用から家庭用、そしてモバイルへと、急速なトレンドの変化を経験してきた日本のゲーム業界。その背景にあるのが絶え間ない技術革新だ。ガラケーからスマホゲームへの急速なシフトと、それに伴うネイティブアプリの増加も記憶に新しい。そこから導き出されるのは、現在の環境に最適化しすぎると、新たなリスク要因になるということだ。技術の進化によって既存のビジネスルールは簡単に上書きされる。だからこそゲーム業界は、他の産業にみられないユニークなダイナミズムを保ち続けてきた。

「こうした変化に対応するためには、一見するとコスト増にみえても、常に複数の可能性や選択肢を確保することが重要です。遊技機業界におけるリアルタイムレンダリング技術の導入もその一つでしょう。実装にはUnityエンジニアが必要になりますが、それによってVRやARといった新たな展開も可能になります。PCゲームやコンソールへの展開も同様です。Unityの高性能なビジュアル能力と豊富なマルチプラットフォーム対応は、そのための有効な手段でしょう」(伊藤氏)

 

次世代のゲーム開発者育成に必要なこと

このほかユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでは、次世代のゲーム開発者教育にも取り組んでいる。それが「小学生から学べるあそびのデザイン講座」で、7月から世界に先駆けて日本から提供が開始される予定だ。教材をデザインしたのは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』『アンチャーテッド』シリーズなど、数々のヒットタイトルを手がけた安原宏和氏。15回分の授業用教材に教員向けの指導ポイントと、学習用のUnityプロジェクトデータがセットで無償提供されるという。

伊藤氏は「Unityの使い方講座ではなく、ゲームを作る根源的なおもしろさに気づいてもらうためのツール」だと説明した。Unityの使い方を一通り学び、サンプルゲームが作れるようになっても、多くの受講者はオリジナルのゲームが作れるようにならない。ツールの操作を覚えることと、新しい遊びを生み出すことには、大きなギャップがあるからだ。本プロジェクトは、この溝を埋められないかという問題意識からスタートしたという。GTMFのセッションでは、この概要についても紹介される予定だ。

もっとも伊藤氏は「小学生だけでなく、専門学校や大学、さらにはゲーム会社の企画職以外の人間が取り組んでも、おもしろいものになる」と語った。遊びの根幹について学ぶことは、子ども達だけでなく、大人にとってもまた興味深い体験だからだ。伊藤氏はこの取り組みを通して、多くのゲームが作られることを期待していると述べた。同社ではUnityインターハイを通して、オリジナルゲーム発表の場も用意している。

「ゲームができたら、ぜひ小・中学生部門に投稿して欲しいですね」(伊藤氏)

セッションだけでなくブース展示にも力を入れた今年の出展。前述したAMD製の基板による遊技機向けリアルタイムレンダリングのデモはその一つだ。これに加えてUnityエンジニアと企業・学校を結ぶポータルサイト「Unity Connect」の展示も行われる。Unityの活用スキルを軸とした人材マッチングサイトで、クリエイターは自分のポートフォリオやプロジェクトを投稿でき、SNSに似た機能も備える。すでに世界中で4万人近い登録があり、ブースでは希望者が直接登録できる仕組みだ。

特に近年では日本のゲーム業界で働きたい外国人クリエイターが急増中だ。一方で海外展開は多くの企業にとって急務となっている。このように両者は相思相愛の関係にあるにも係わらず、雇用のミスマッチが続いている。お互いに知り合う機会がないからだ。一方で本サイトはゲーム業界に進みたい学生にとっても有効だ。スキルさえあれば、企業と直接つながることが可能だからだ。新卒一括採用が崩れつつある中、本サイトはさまざまな形でUnityクリエイターの福音になることが期待されている。

このほか映像業界での活用事例拡大に伴い、機能拡張における要望を受けつけるコーナーも用意される。クロースド環境の中、自社パイプライン上でUnityを活用する上でのボトルネックや、求められる機能について直接話ができるというわけだ。

「通常こうした機能は各社のテクニカルアーティストが解決します。しかし、こと日本においてはTAが数少ないのも事実です。そのため、それらを弊社側が新機能として実装できればと考えています」(伊藤氏)

ちなみにUnityの映像業界におけるアプローチ拡大は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンだけでなく、全社的な意向なのだという。そのためにも日本における映像業界でのニーズの掘り起こしには力が入れられている。トゥーンシェーディングを活用したセルルック表現をはじめ、日本には世界的にみても珍しいCG映像文化が存在するからだ。一方で本社側でもこうした「現場で役立つ機能」の実装に対して意欲的だという。

伊藤氏はこうした拡張機能の一つとして、UnityのMeshSync機能を上げた。通常ゲームの3DCGアセットはMayaや3ds MaxといったDCCツールとゲームエンジン側でシーンデータのやりとりを重ねて制作される。この時アーティスト側がDCCツール上での作業内容を直接、ゲームエンジン側で確認できれば作業効率が格段に上昇する。UnityのMeshSync機能は、まさにこれをリアルタイムに実現するものだ。このように現場で求められる要望を集約し、 アップデートに繋げていきたいという。今回のGTMF会場では、開発現場のエンジニアやアーティストがより便利にUnityを使うための要望をUnityのエンジニアに相談できる「Unity開発現場ヒアリング」を実施。所定のフォームから、時間を指定しての事前申し込みが可能だ。

Unity開発現場ヒアリング事前お申込みフォーム
http://urls.unity3d.jp/hearing-gtmf2017

 
このようにデジタルエンタテインメント業界全体で、大きな存在感を示しつつあるUnity。もっとも、その背景にあるのがユーザーコミュニティであることに変わりはない。実際、日本で最も経験者の多いゲームエンジンであることが、人材採用や問題解決の容易さにもつながり、企業がゲーム開発にUnityを採用する理由の一つになっている。採用事例が増えれば対応するミドルウェアやツールも増加し、さらにUnityの利便性が増していく。それらがユーザーコミュニティに還元されるという図式だ。

もっともツールベンダーやエンジンベンダーにとって、プロのゲーム開発者からの生の声を聞く機会は、なかなか存在しない。そうした中、GTMFは東京と大阪の二箇所で直接交流できる場だ。この機会を十分に活かしていきたいと伊藤氏はまとめた。

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