『Gears of War』のヒットを支えたホワイトボックスとキットバッシング CEDEC+KYUSHU2016

エピックゲームズ・ジャパンのロブ・グレイ氏は九州大学大橋キャンパスで開催された「CEDEC+KYUSHU2016」で10月22日、「ロブ・グレイの最新UE4ガイド!」と題した講演を行った。グレイ氏はエピックゲーズ社内のゲーム制作で実際に採用されている、Unreal Engine(UE)4を用いた開発ワークフローを紹介。特に「ホワイトボックス」「キットバッシング」と呼ばれる開発プロセスについてデモを行いながら解説した。

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エピックゲームズの開発を支えるUE4

ここであらためて説明するまでもないが、エピックゲームズは『Unreal Tournament』『Gears of War』『Infinity Blade』といったゲーム開発と、UE4(ゲームエンジン)のライセンスという2つの事業領域を持つ企業で、ここが多くのベンダーと異なる点だ。ゲームとゲームエンジンの開発を並行して行うことで、より多くのシナジー効果が出るとしている。近年では新『Unreal Tournament』をユーザーコミュニティと共同開発するなど、意欲的な取り組みも行っている。

また同社はゲームデザイナー&アーティストとプログラマーの分業体制を推進してきた草分け的な企業でもある。前者にクリエイティブなゲーム開発環境、すなわちUE4を提供して自由な創造性の発揮を推進。その一方で後者はミドルウェアやツールの整備拡充を行いつつ、より高度な研究開発や実装を担当する。今では国内のAAAゲーム開発でも同様のスタイルが見られるが、2000年代に入って国内に持ち込んだのが同社だった。グレイ氏は、その背景にあるのがMOD文化だったと述べた。

なお、同社がこうした「分業体制」をいち早く導入することができたのは、主力ゲームが『Unreal Tournament』をはじめFPSだったことも大きい。フィールド、バトル、イベントと異なるパートを作り込む国産RPGと異なり、FPSのゲーム開発はよりシンプルで、マップ単位で分業化し、フォーカステストが実施できる。こうした中からマップデザインを通してプレイヤーのゲーム体験を総合的にデザインする「レベルデザイン」の概念が生まれてきた。

 

UE4をベースとしたレベルデザインの開発ワークフロー

グレイ氏の以下の講演も、このレベルデザインに焦点を当てたものだった。はじめにグレイ氏はエピックゲームズ内でのレベルデザインのワークフローを次のように説明。その背後にあるのが「短時間でプレイ可能なプロトタイプを作る」「イテレーションを容易にする」「無駄な作業とアセットの作り直しを抑える」「見た目ではなく楽しさに集中する」という考え方だと述べた。実際、初期の『Unreal Tournament』の開発は十数名で行われており、効率化が非常に重要だったという。

①ハイレベルコンセプト
そのマップでの鍵となる体験やゲームの目的、アートのコンセプトなどを決める
②ブレインストーミングミーティング
①にもとづいて、レベルごとにチームメンバーでアイディアを出し合う
③ホワイトボックス
板ポリや仮メッシュで大ざっぱにレベルのレイアウトを作り、ゲームプレイの骨組みを作る
④メッシング
最終段階に近いオブジェクトに置き換え、基本的なマテリアルを適用する
⑤スクリプティングパス
より複雑なロジックやプログラミングを行う
⑥ライティング
ライティングとマテリアルの改善を行い、ポストプロセスのエフェクトを追加する
⑦ファイナルポリッシュ
エフェクト・オーディオを追加し、ボリュームも追加して最終調整を行う

 

 

ホワイトボックスとキットバッシュで開発効率が劇的に改善

グレイ氏はこの中でも鍵となるのが「ホワイトボックス」だと解説した。シンプルなオブジェクトを使用し、短時間(数日から数週間)でゲームプレイの検証が可能なものが作れるからだ。ブループリントでスクリプトが組めれば、プログラマーの手をわずらわせることなく、アイディアをすぐに形にできる。すでに新『Unreal Tournament』で開発されたホワイトボックスのうち、いくつかがUE4のランチャーからダウンロードでき、実際に確認できるという。

また、グレイ氏は「ゲーム体験が固まるまではアートの実装をしない」ことが重要だと述べた。その一方で仮オブジェクトをより複雑な形状のものに差し替える時も、コリジョンはシンプルなまま保つことがバグを減らすコツだと補足した。グレイ氏は「レベルがプロシージャルに生成されるようなゲームや、格闘ゲームではホワイトボックスは適さない」と注意を促しつつも、チーム内のコミュニケーションロスを低下させる効果もあるため、ぜひ試してみて欲しいという。

続いて説明されたのが「キットバッシング」だ。この語源は1970年代のハリウッド・SFX業界にさかのぼる。講演で紹介されたのは『スター・ウォーズ』の例で、宇宙船のディティールアップに既存のプラモデルのパーツが流用された。ある製品(キット)をバラバラにして(バッシュ)、別の目的のために活用する=キットバッシングというわけだ。ここでいうキットバッシングも同様に、さまざまな汎用オブジェクトを組み合わせて、仮キャラクターなどを作成する行為をさしている。

こうした考え方が取り入れられたのは、『Gears of War』の開発からだったとグレイ氏は述べた。『Unreal Tournament』の時代は各々のレベルデザインチームが個別に開発し、完成度を競い合っていたため、世界観の統一がなされていなかった。しかし初代『Gears of War』ではストーリー体験が中心で、違うやり方が必要だった。はじめに仕様書が作成されたが、大きな問題にぶつかった。誰も大量の仕様書を率先して読もうとしなかったのだ。ゲームデザイナーの側でも仕様書を書き、完成した仮データをチェックするだけの業務を敬遠する傾向が見られた。

こうした中、開発チームで大きな飛躍があった。もともと『Gears of War』で登場するローカストは人間サイズばかりだった。そうした中、「大型クリーチャーが登場したら面白いのではないか」というアイディアが飛び出したのだ。さっそく、ありものの素材を使って仮キャラクターが作成され、キズメット(=ビジュアルスクリプト言語)でロジックを組み、テストプレイが行われた。その結果、このアイディアがすぐに採用された。こうして生まれたのがブーマーだったのだ。

 

人型の兵士があっという間に蜘型ガードロボットに変更

このように「ホワイトボックス」と「キットバッシング」を積極的に導入した結果、制作パイプラインが劇的に変わったとグレイ氏は語る。ゲームデザイナーが考えたアイディアを、すぐに形にして検証できるようになったのだ。その上で採用されたらドキュメントにまとめていく。シンプルになっただけでなく、仕様書と実装の順序も逆になった。実際に『Gears of War 2』はこのプロセスを用いて、わずか24ヶ月で作成され、最初の半年間はプログラマーも1名だけだったという。

なお、当たり前のことだがキットバッシングは続編の方がやりやすい。前作の素材がそのまま流用できるからだ。似たような世界観のゲームから流用する手もある。実際にモバイル向けに制作された『Infinity Blade』では、Chair Entertainmentと共同制作されたアクション『Shadow Complex』のキャラクター素材が使われたという。「剣は棒、盾はゴミ箱の蓋でした。それで十分だったのです。2週間くらいで最初のデモが完成しました」(グレイ氏)

その後、グレイ氏はUE4上でFPSの敵兵士をベースに、蜘型のガードロボットに改造するデモを披露した。胴体は円筒型のオブジェクトで、足は巨大な支柱だ。それぞれサイズを調整し、兵士の胴体や足と差し替えて、ブループリントでロジックを追加する。これだけで足をガチャガチャと動かしながら攻撃してくるロボットが完成した。こうした改造ができるのも、UE4がオブジェクト指向で設計されているからこそ。いわばブロック遊びのような感覚でキットバッシングができるのだ。

このようにグレイ氏はキットバッシングの使用例に「クリーチャー」「武器」「ゲームプレイシステム」「特別なレベルシナリオ」を上げた。その上で「キットバッシングはゲームデザイナーが個人で行う必要がある」「迅速な実装」「既存のアセットを活用する」「素早いイテレーションが必要」「フィードバック(ゲーム中の反応表現)」が重要」という注意点を挙げた。また「仮にうまくいかなくても作業ロスは少ない。むしろ大量に作って大量に捨てる姿勢が重要」だと指摘した。

「エピックゲームズでは『Epic Friday』といって、開発者が通常の業務を離れて、自由に自分のアイディアを試せる時間があります。そこでは多くの開発者が『ホワイトボックス』と『キットバッシング』で、リスキーなアイディアを試しています。ぜひ皆さんもチャレンジしてみてはどうでしょうか」(グレイ氏)

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