『グランド・セフト・オートV』のビキニの女性は誰なのか?裁判所がリンジー・ローハン氏の訴えを棄却

ニューヨーク州控訴審裁判所は3月29日、Take-Two Interactiveの『Grand Theft Auto V(グランド・セフト・オート、以下GTA V)』が、自身の肖像権を侵害しているとの女優リンジー・ローハン氏による訴えを棄却した(リンク先はpdf)。リンジー氏は、2014年に『GTA V』に登場するキャラクター「レイシー・ジョナス」が自分をモデルにしているとして、販売元のTake-Two Interactiveを提訴。2016年に敗訴したのち、上訴のため、控訴審裁判所に訴えを起こしていた。2016年の判決で裁判所は「ゲームのパブリッシャーはニューヨーク市民憲法第51条が保護するリンジー氏の名前や肖像、写真を使用していない」との判断を示し、リンジー氏のプライバシー権が侵害されたとはいえないとの判決を下している。

この度裁判所は「ビデオゲームにおけるアバターは、個人のプライバシーやパブリシティー権の保護を目的としたニューヨーク州法が適用される写真内のイメージと同様のものとして扱われる」と、一歩踏み込んだ判断を示し「ITとデジタル通信の拡大を鑑みるに、ビデオゲームまたはそれに類するメディアにおけるグラフィック表現が、公民権法上の“肖像”を構成し得る」との結論を下している。たとえCGをはじめとするデジタルメディア上の架空のキャラクターであっても、写真同様に実在する人物を再現できるほど技術が進化した現在では、法の下で保護される肖像として扱われ得るとの画期的な判断といえるだろう。もし裁判所がゲーム内のアバターがリンジー氏であると認めれば、2016年の判決が覆る可能性が出てきたわけである。

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Stop and Frisk

では、今回のケースはどうだったのだろうか。リンジー氏は『GTA V』に登場するキャラクター「レイシー・ジョナス」と、「Beach Weather」と名づけられたアートワークでスマホ片手にピースサインをする赤いビキニの女性、そして「Stop and Frisk」というアートワークで逮捕されている金髪女性を根拠に、Take-Two Interactiveが自身をモデルにしていると裁判で主張した。このうちレイシー・ジョナスについては過去にモデルのShelby Welinder氏が、自分がモデルであると名乗り出ており、赤いビキニの女性についても、Daily Dotがトレース元と思われるKate Upton氏の水着写真を公開するなど、別人説が濃厚になっており、リンジー氏の主張はかなり旗色が悪い状況となっていた。

今回、裁判所はあらためて「ジョナスのキャラクターは判別可能な身体的特徴をもたない20代女性の一般的なアート表現に過ぎず、一見して原告とは認められない」「Beach WeatherとStop and Friskのイラストも同様であり、これらのアート風レンダリング画像は、現代のビーチの女性たちのスタイルやルックス、人格の比喩的な風刺表現である」と、リンジー氏の主張を退けた。控訴審裁判所は「被告は『GTA V』で原告を参照したことはなく、名前、写真を使用しなかったことは明白である」と、リンジー氏の訴えを棄却した。ゲーム内のアバターがリンジー氏であると特定できるような特徴がないというのが、棄却の理由といえるだろう。

問題となっているLacey Jonas Image Credit: Daily News New York

ゲームに関しては以前にも、女優のエレン・ペイジ氏が『The Last of Us』のエリーが自身の少女時代に瓜二つであることについて不快感を示すなど、ゲーム内のキャラクターの肖像権が話題になったことがあった(reddit)。ちなみにエレン・ペイジ氏は『Beyond Two Souls』では正式にモデルとして主人公ジョディを演じている。またNaughty Dogは、エリーのモデルはボイスアクトを務めたAshley Johnson氏であるとしている。日本でも先日、デーモン閣下がNHKアニメ「ねこねこ日本史」に登場するキャラクターが自信をモデルにしているとして「吾輩の姿の無断使用」とNHKを批判する騒動があったばかり。この件ではNHKが後日デーモン閣下に謝罪し、解決している(番組公式サイト)。

今回の裁判でも言及された「ビデオゲームまたはそれに類するメディアにおけるグラフィック表現」は、CGのフォトリアル化に伴い、すでに現実の問題として顕在化している。海の向こうニューヨークの話ではあるが、ゲーム内のアバターが写真と同様に肖像権の保護の対象となりうるとの判断が下されたことは、画期的な出来事といえるかもしれない。Daily News New Yorkによると、リンジー氏とともにTake-Two Interactiveを訴えていたKaren Gravano 氏の弁護士であるThomas Farinella氏は、今回の裁判所の決定について「裁判所がコンピューターによって生成された画像が(国家)公民権法上の“肖像”となり得るという判断を下した先例が生まれたことは、決して無駄ではなかった」とその意義を語っている。

『BEYOND: Two Souls』

これまでゲームやさまざまなメディアの中で、数多くの「明らかに実在の人物を匂わせたキャラクター」が登場してきた。スポーツゲームで実在の選手を扱う権利の問題を除いて、ゲームではキャラクターの見た目が実在の人物に似ているということは、あまり問題にされてこなかった歴史がある。今回の裁判でも、裁判所はリンジー氏の「名前」が登場していないことを棄却の理由のひとつに挙げていることから、名前が違うことが肖像権の侵害になりうるかについて、大きく影響することは間違いないだろう。しかし、同時にリンジー氏であると判別できる「身体的特徴」がないことも棄却理由になっており、今後NHKとデーモン閣下の例のように「明白な身体的特徴」を備えていれば、たとえ名前が「デーモン風高杉」であったとしても問題となりうるともいえる。経済メディアBloombergも、「今回の判決によって、自身の肖像が許可なく使用されていると主張するアスリートや著名人とゲームメーカーとの争いが加速しそうである」と懸念を示している。

いずれにしても、ゲーム業界はキャラクターのモデルの取り扱いについて、モデルに正式に出演をオファーするか、あるいはそれとわからないようにするなど、より慎重にならざるを得ないだろう。同様に、実在の人物を登場させる非公式なModなども、今後訴訟に巻きもまれることが考えられる。
訴えが認められるかどうかはともかく、グラフィックがリアルになれば、『ダービースタリオン』の滝登が、どこかにいる実在のジョッキーに訴えられる日もくるのかもしれない。

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