どんな開発者でも失敗はする。多くのゲーム開発者らが「うっかりやらかしてしまった失敗談」を語り合う

Image Credit: Outspokenbeef15
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以前弊誌では、プレイヤーのゲーム体験を高めるために、ゲームにこっそり取り入れられている工夫を紹介した。そこでは普段我々ユーザーが目にすることのない、ゲーム開発の一端を垣間見ることができたと思う(関連記事 第一弾第二弾)。このほど、また別のテーマでゲーム開発での裏話を共有しようと呼びかける開発者が現れ、興味深いエピソードが寄せられているのでいくつか取り上げたい。

今回呼びかけをおこなったのは、かつてFiraxis Gamesなどに所属し、現在はフリーランスのアニメーターとして『Civilization VI』や『Agents of Mayhem』『Lawbreakers』などに携わった経験を持つDan Perry氏だ。彼がTwitter上で開発者仲間に呼びかけて募ったのは、「ゲーム開発者としてやらかしてしまった失敗談」である。

 

確認を怠り痛い目に

Perry氏はまず自らの経験として、キャリアで2本目のAAAタイトルでの出来事を披露している。Perry氏はそのタイトルの開発に参加した初日に、スタジオのすべてのテストサーバーをクラッシュさせてしまったという。それは彼が誤って送信した、たった一つの破損ファイルが原因だったそうだ。Perry氏は「ボスは笑っていたよ」と語っているため、大事には至らなかったようだが、当時のPerry氏はさぞ肝を冷やしたことだろう。

『Battlefield: Bad Company』

こうした、送信したファイルにまつわるエピソードはほかにもある。DICEでソフトウェア・エンジニアとして活躍するMikael Lagré氏は、業界に入って最初に携わったのは『Battlefield: Bad Company』だったそうだが、当時一番最初に提出したシンプルなコードひとつによって、同作のすべての武器のリロードが機能しなくなってしまったという。また、ツール上で保存するはずが誤って送信を押してしまい、発売1週間前という追い込み段階で忙しい開発現場のすべてに、中途半端なデータが共有されてしまったこともあったそうだ。

Eidos Montréalで『Deus Ex: Mankind Divided』などに携わり、現在はSumo Digitalでリードアニメーターを務めるAline Schleger氏は、とあるAAAタイトルの開発初日に、キャラクターのアイドル状態のアニメーションループを作成していたそうだ。そして、完成したファイルをプログラマーに送信したのだが、うっかり別の用途と混同して伝えてしまった。すると、そのプログラマーは自分のミスでアニメーションがおかしくなったと思い、Schleger氏の元に慌てて飛んできたという。Schleger氏はその当時の教訓から、何を送るにも事前確認を怠らないようにしているとのこと。

『GOD OF WAR III Remastered』で「スパルタの軍勢」を召還した様子。盾にはVマークが描かれているが、スパルタのマークはΛが正しい

ソニーのSanta Monica Studioに務めるアニメーション・ディレクターのBruno Velazquez氏は、かつて手がけた『GOD OF WAR III』でのエピソードを明かしている。同作では主人公のクレイトスは魔法により盾と槍を持った「スパルタの軍勢」を召還することが可能で、彼はそのアニメーションを担当していたが、その盾を誤って上下逆さまにしていたことをゲームの発売後に気付いたそうだ。実は、それは現在も修正されておらず、Velazquez氏はそのことを問われるたびに「もちろん意図してやったことだ。彼らスパルタは追放された身なので、上下逆さまにして反抗心を示しているんだ」と苦しい言い訳をしているという。

 

小さなミスが大きな問題に

こうした特に大きな問題にならずに済んだミスもある一方で、そうではない例もある。Daybreak Game Companyのクリエイティブ・ディレクターBen Jones氏は、かつてDICEで『Battlefield 4』のマップ「Operation Metro 2014」を担当していた。そこで新たに追加した瓦礫に対応するために、プレイヤーのリスポーン位置の微調整をおこなったそうだが、それが一部ゲームモードでのゲームバランスの崩壊に繋がってしまった。結局、原因を特定し修正するまでに数か月を要したそうだ。その微調整は配信直前におこなったとのことで、十分にテストをおこなう時間があれば事前に発見できたかもしれないとJones氏は振り返っている。

『Diablo III』のオークションハウス

Blizzard EntertainmentやCD PROJEKT REDなどで働き、現在は自身が設立したBeholderのクリエイティブ・ディレクターとして外部開発協力をおこなっているNick Slough氏も過去の失敗談を共有している。それはただ一言、「『Diablo III』のオークションハウスをデザインしました……」である。オークションハウスとは、同作にかつて実装されていたアイテム売買の場で、実際のお金を使って取引することが可能だった。Blizzardとしては、こうしたRMTシステムを公式に提供することでユーザーに安全に取引してもらえると考えたが、結果的にPay-to-Winに繋がると同時に、同作のハックアンドスラッシュの楽しみを奪ってしまうと批判されて閉鎖を余儀なくされた。たった一言で通じてしまうほど、同作における象徴的な出来事の一つだったわけだ。

Lucid GamesのプログラマーPhil Hilliard氏は、あるPS1タイトルを開発している際、ゲームで使用しているライセンスコンテンツの権利者にデモビルドをチェックしてもらう機会があったそうだ。Hilliard氏はPS1時代はStudio 33に所属していたため、おそらく『Formula One 2001』のことだと思われるが、いざ起動して見せたところゲーム画面が白黒でしか表示されなかったという。原因は、Hilliard氏のスタジオはイギリスを拠点にしており、ライセンスホルダーはアメリカだったことにある。つまり、ヨーロッパで主流の映像方式であるPAL用のデモビルドを持っていってしまい、アメリカのNTSC方式のテレビでは正しく表示されなかったのだ。Hilliard氏は、自分の顔色も白黒に色を失っていく気分だったと振り返っている。

晴れの舞台でのうっかりミス

『Alan Wake』

デモビルドをめぐる失敗談では、Futureflyの設立者Oskari Häkkinen氏も、かつて務めていたRemedy Entertainmentでの経験を振り返っている。Häkkinen氏は当時、『Alan Wake』をGamescomに出展する機会があり、Sam Lake氏らスタジオの幹部と共に会場で先に準備をおこなっていたそうだ。そしてあとはゲームのデモビルドの到着を待つのみとなったが、なんと担当のスタッフがそのビルドをすべて飛行機に置き忘れてきてしまったという。Häkkinen氏自身が引き起こしたミスではないが、その後どう対処したのか気になるところである。

Sucker Punch Productionsでアニメーション・ディレクターなどを務めるBilly Harper氏も、ゲームショウにまつわるミスを犯したことがあるという。Harper氏は『inFAMOUS Second Son』を手がけていた当時、ループ動画共有サービスVineに興味があったそうだ。そして動画の投稿を試してみたのだが、その動画は2か月後のE3で披露する予定だった同作の映像の重要なシーンだった。軽い気持ちで試しただけが、重大なリークになってしまったのだ。幸い、同スタジオの共同設立者Brian Fleming氏がフォローしており、すぐに知らせてくれたおかげで、実際にリーク情報が駆け巡る前に削除することができたそうだ。

『inFAMOUS Second Son』E3 2013トレイラーの一場面

失敗という訳ではないが、面白い教訓を得たというエピソードもある。Crytekやヴァルハラゲームスタジオで経験を積み、現在はDeNAでグラフィック・エンジニアとして働いているChristian Helmich氏は、かつて手がけたとあるFPSタイトルでポストプロセス・エフェクトを担当していたそうだ。そこでガラスに擦り傷が入るエフェクトを手がけ、良い仕上がりになったので提出したという。すると翌日、提出した相手がモニターを新品のものに交換していた。なぜ交換したのかと聞くと、「モニターに擦り傷が入っていた」と話したそうだ。その日以来、Helmich氏は提出するエフェクトはデフォルトでは表示させないようにしているそうだ。

そのほか、業界で広く使用されている管理ツールPerforceの操作にまつわるうっかりミスは、Dan Perry氏が「そうさせるようにデザインされているんだ」と皮肉を言うほどの“あるあるネタ”のようで、多くの開発者が言及している。また、2万人にメールを送信するところ、誤って2万通のメールを1人に送信してしまい自身のメールアドレスが会社のブラックリストに入れられただとか、ゲーマーの間で使われている自社をネタにしたジョークを社内メールで使用して幹部の怒りを買ってしまったなど、ゲーム開発に直接関係するものではない失敗談も多数寄せられている。

Perforce Helix P4V

今回、呼びかけをおこなったDan Perry氏は、新人開発者らのプレッシャーを和らげるために失敗談を募ったという。ミスはしないに越したことはないが、ベテラン開発者らも、かつてはいろいろやらかしてしまったんだというエピソードを聞けば、少しは気を楽にして仕事に取り組めるのではという計らいなのだろう。Perry氏のツイートスレッドでは、これら以外にも数多くのエピソードが寄せられており、中には業界の専門的な話もあるので、興味のある方は覗いてみてはいかがだろうか。

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