大阪で毎月開催される「Ichi Pixel」は、ゲーム開発者またはゲーム開発に興味がある人たちが集まるミートアップ。会場は大阪の下町、天神橋筋六丁目にある古民家をリノベーションしたバーBar Escae。

そこで何がおこなわれているのかというと、いつもだいたい19時30分ごろから人が集まりだし、20時すぎにはプレゼンテーションが開始する。プレゼンターは一般募集する方式をとっているので、顔ぶれが毎回変わって面白い。プレゼンターの人数にもよるが、だいたい21時ごろにはプレゼンタイムが終了し、うだうだしているうちに22時になりイベントの終了が告げられる。その後は、時間に余裕のある人が2階に上がってソファーでくつろぎながらゲームを見せ合ったり、その場で意気投合した人と二軒目に向かったり、千鳥足で闇に消えたり、それぞれが好きなように過ごし、好きなだけ笑う。つまりIchi Pixelはわかりやすく言うと、ありきたりな表現で申し訳ないのだが、ゲーム開発者多めの飲み会である。

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第1回目から通い続けている筆者のIchi Pixelに対するイメージは、「とてもゆるい」である。「一見さんお断り」というような雰囲気はまったく感じられない。ゲーム開発に興味がある人であればだれも気軽に参加、いや、ちょいと立ち飲みする気分で寄れるだろう。誰かのゲームを見たり、誰かと話をしたり、肩肘張らずに過ごせる時間がここにある。

開催から半年が経過し、ようやくIchi Pixelの公式サイトがオープンした。プレゼンの風景や会場の雰囲気はYouTubeInstagramなどを見て感じていただくとして、今回は主催である仲島瀬里奈(以下、なかじま)さんに、Ichi Pixelはもちろんのこと、個人で制作中のゲームや、GGJについてなど、お話をうかがった。

 
――いろいろな方から聞かれたと思いますが、「Ichi Pixel」を開催しようと思ったきっかけを教えてください。

なかじま:
きっかけは、東京への憧れです。東京ゲームショウ、闘会議、デジゲー博、東京インディーフェス、ぜんぶ東京じゃないですか?関西でももっとそういったゲームイベントが欲しいって思ったんです。勉強会なども調べているとやっぱり東京で、あまり大阪はないですよね。それで、関西でゲーム開発者が集まれる場所を作れたらなあと。

 
――なるほど。なぜ東京にはたくさんあって、逆に関西では少ないのでしょう。

なかじま:
関ゲ部やKyoto Indie Meetupなどもあるんですけど、まだ少ない感じがします。運営スタッフの仲村さん(『LA-MULANA』のプロデューサー)も言っていたんですけど、人口の密集度の違いかなと。そのほかに、ITってやっぱり東京に集中しているのかな?というのもあると思います。

 
――勉強会を開催しようとは思わなかった?

なかじま:
Ichi Pixelで勉強会を開くというのはありかなと思ったんですけど、硬い雰囲気にはしたくなかったんです。それに、じつは勉強会が嫌いで……。

何回か勉強会に行ったことがあるんです。でも、どうしても寝そうになっちゃう……。やっぱりゲームを見るほうが楽しいです。それで今のスタイルになりました。ほとんど「Tokyo Indies」を模したような形になってますけど。

ある日Twitterで、話の流れの中で「KANSAI Indies」ってボソっとつぶやいたら仲村さんが拾ってくれて、すぐに連絡がきて、ちょうどそういうのを考えていたんだけどやってみない?って。それがきっかけでスタートしました。

 
――そんなやりとりから4か月が経過した2016年8月22日、記念すべき第1回Ichi Pixelが開催されました。毎回プレゼンターを募集されていますが、初回はNIGOROの楢村さんがプレゼンされました。

なかじま:
最初は少し豪華にしたかったので、慣れている楢村さんにお願いして出てもらいました。だからといって「楢村さんがプレゼンするから来てね」とは言わなかったですし、これからも「有名な人が出るからみんな来てね」というふうにするつもりはないですよ。

 
――なかじまさん自身は2回目のときにされましたが、過去にほかのイベントでプレゼンの経験はありましたか?

なかじま:
Tokyo Indiesで『Rabbian』について話をしました。父親のゲームをわたしが移植したことなどを。人前で話すことが苦手ですごく緊張して、そのときは自分が何を話しているのかわからなかったです(笑)。でもそのおかげで伎一(@gtozka)さんと知り合えて、ファミ通に掲載されて、多くの人に知ってもらうことができました。さらにそこで覚えてくれていた人がBitSummitのブースに来てくれたりとか、たまたまわたしはいなかったですけど、そういう良いこと、うれしいこともありました。

 
――自作のゲームを人に見せることで、何か得られるものがあるんですね。そういえば『Missileman』の大橋ご夫妻がBitSummitに出展されたとき、「たくさんの人の声がきけてよかった」とおっしゃってました

なかじま:
開発途中段階のゲームを見せたくないという人は多いので、ゲームを見せることの怖さをなくしていこうという取り組みをできればとIchi Pixelで考えています。具体的にこうしようというのは今のところなくて、まだ準備段階ですけどね。

 
――ところで、なかじまさんがゲームに興味を持ったのはいつごろですか?

なかじま:
父親がゲーム機を集めていたので、子供のころから最新のゲーム機を見て触れていました。でも、ファミコンだけはなかったんです。スーファミはあるんですけど。

 
――子供のころからゲームを作りたいと思っていた?

なかじま:
まったく思っていなかったです。高校時代も思わなかったです。

 
――ということは高校を卒業してから?

なかじま:
このときからというはっきりしたものはないんですけど、もともとゲーム実況動画を見ることが好きで、とくにフリーゲームの実況が好きだったんです。フリーなのにこんなによくできたストーリーのゲームを作れるなんてすごいという気持ちと、わたしが作ったゲームを好きな実況者に実況してもらえたらいいなという思いはありました。

高校を卒業して1年後くらいから、父親の会社でプログラミングの勉強をさせてもらいました。東京のゲーム会社に面接に行ったことがあって、結果は採用だったんですけど、いろいろ事情があって最終的にここに残りました。その後、「お父さんの会社にゲーム開発の部門があったらなあ」って言ったら、「じゃあ作るよ」って言ってくれて。やばいですよね。

 
――ゲーム大好きなお父さんですから、なかじまさんの言葉を聞いてすごく喜ばれたのでは。

なかじま:
かなり(笑)。

 
――親としてはとてもうれしいでしょうね。しかしその反面、プレッシャーもかなりありそうです。

なかじま:
プレッシャー感じます。自分がここにいる意味はあるのかな?って思うときもあります。最近はシステムの開発も手伝うようになったので、気持ちは少し楽になりましたけど、なかなかむつかしいです。

 

左:Working of Rabbian iOS/Android
右:Rabbian -Rescue Operation- iOS/Android

――ファンテックさんはシステム開発がメインでしたが、なかじまさんの入社によってゲーム開発部門ができ、お父様が昔作られたゲームをモバイル向けに移植した『Working of Rabbian』をリリースされました。あのむつかしいゲーム……。

なかじま:
むつかしいですよね(笑)。じつは本家のほうがもっとむつかしいんですよ。1から12まで一度も死なずに進んでいたんですけど、最後の最後にミスしてしまって、いらっとしてやめました(笑)。もともとはキーボードで遊ぶゲームだったので、タッチ操作だとむつかしくなってしまいますね。

ちなみに新しい『Rabbian -Rescue Operation-』のほうもむつかしくて、わたしの性格の悪さが表れていますよ(笑)。キャラクターは前作と同じですけど、ほかはわたしのほぼ完全オリジナルです。父の移植のほうもこちらも、Objective-Cで作りました。

 
――なかじまさんのオリジナルのほうはTGS2016のブースでも遊ばせていただきました。イベント出展は何度か経験されたんですか?

なかじま:
2015年に東京インディーフェスに行ったとき、自分も出展できるんじゃないかなって思って、出展してみたいと思うようになりました。そして2016年の闘会議の中で開催されていたデジゲー博にファンテックとして出展しました。そういえば、そのときのわたしのブースの隣がroom6のまさしさんで、仲村さんがroom6さんのブースに来て――そこで紹介してもらったことで仲村さんとのつながりができました。

 
――デジゲー博2016では、なかじまさんが個人で作られているゲーム『From_.』のデモを出展されました。見た感じ、雰囲気的に暗いお話なのかなと思うのですが。

なかじま:
暗い……暗いですね。物語は完結まで考えてあります。フリーゲームの実況を見るのが好きってお話をしたじゃないですか?最近のフリーゲームって泣けるものが多いんです。なのでわたしも泣けるゲームを作りたいなって。

 
――ということは、暗い雰囲気ではあるけれど、ホラーではないんですね。

なかじま:
「うわっ」って思うような場面とか、ゾッとするような何かも考えてますけど、ホラーじゃないですよ。

 
――家が水面に浮いていたり、移動手段が船だったり、独特な世界観ですね。

なかじま:
いろいろなものがごちゃまぜになっているんですけど、ヴェネツィアがイメージで、設定は大正ロマンみたいなものを目指しています。

 
――コンセプトアートを見ると、たしかに主人公は大正っぽさがありますね。ジャンルは何になりますか?

なかじま:
アドベンチャーです。手紙を届けて、その世界の住人たちをつなげていきます。『From_.』のキャラクターができたとき、最初はゲームにしようとは思ってなかったんです。仕事の休憩中にドット絵をポチポチ描いていたらキャラクターができて、Twitterでシェアしてみたら反応が良かったので、じゃあゲームにしようかなって。

 
――『From_.』もObjective-Cで?

なかじま:
『From_.』はCocos2d-xです。C++ですね。デスクトップ版も考えてますけど、とりあえずはモバイルで。開始からもうすぐ1年経つんですけど、まったく作れてなくて(笑)。

 
――周りの開発者さん、たとえば『Strange Telephone』のyutaさんはゲームを完成させてリリースされましたが、焦りは感じますか?

なかじま:
焦りますよ。でも、焦るだけですね。作らなきゃって思いながらも、「『スプラトゥーン』が止まんねえ」みたいな(笑)。

 
――楽しいですもんね。ゲームをプレイするのは得意なんですか?

なかじま:
ゲームは好きなんだけど、続かないというか、クリアできないタイプです。わたしが初めてクリアしたゲームはWiiの『ペーパーマリオ』で、実況動画を見ながらでした。

 
――ということは、『From_.』はクリアできるものに?

なかじま:
絶対クリアできます。

 
――ノベルゲームのような?

なかじま:
そう言われるとそうかもしれないですね。動くノベルゲームみたいな。

 
――ひとりでゲーム開発は大変そうです。たとえば学生時代からの友達と遊んだときにゲームの話をしたり、手伝ってくれたりしますか?

なかじま:
女なのでゲームを遊ぶ子が少なくて。誰かと一緒にゲームを遊ぶことに憧れがあったんですけど、誰もいないからお兄ちゃんと遊んでいました。でも最近になって、わたしのSNSアカウントをフォローしてくれている友達とはゲームの話をするようになりました。わたしが紹介したゲームを遊んでくれたり、わたしのゲームの感想を言ってくれたり、その子だけとはゲームの話をします。

 
――20代の女の子というともっと友達と遊びたいと思うんですけど、それでも休日はゲーム開発に時間を割くわけですか。

なかじま:
いや……イカゲームが……(笑)。それじゃだめだと思って、最近はパソコンを持ち歩くようにして、なるべくゲーム開発を進められるようにしていますよ。

 
――イベントに出展したりプレゼンしたり、いろいろなところでなかじまさんの姿を見るようになりました。先日はGGJにも参加されていましたね。

なかじま:
精華町会場のプログラマーが足りないということで、誰か参加できませんか?という話をもらいました。でも、誰かと一緒に開発することが未経験なので怖かったです。ゲームジャムって戦場だと思ってたので(笑)。

 
――GGJに参加していかがでしたか。

なかじま:
わたしのチームの中に知り合いはいなかったし、リーダーをまかされそうになるし、最初はちょっと焦りました。でも、リーダーらしい方がちゃんと仕切ってくれてよかったです。めっちゃ楽しかったですよ。

わたしはチームでゲームを作る経験がなかったので、GitHubのありがたさを知りました。あいつはすげえなと(笑)。作業を分担してやるとこんなに早く開発が進むんだってこともわかりました。あとは自分とは違う能力を持っている人を間近で見れるという新鮮さですかね。プラスしかなかったです。

 
――来年も参加したい?

なかじま:
そうですね。海外のゲームジャムも気になります。現地に行って参加したいです。

 
――フィンランドのサバイバル要素満載のゲームジャムとか?

なかじま:
むりむりむりむりむりむり(笑)。Instagramで海外のゲームジャムの雰囲気を見ていると、すごく楽しそうだなって。すごく変わったゲームも多いし。

 
――国内でも変わったゲームが生まれていますよ。札幌会場とか。今年だと『とつげき!!ハムスター2』ですね。これいま遊ぶとちょっとやばいので、家に帰ってからどうぞ。

なかじま:
動画の最初のほうを見ただけで怖くなってきました……。昔のフラッシュみたいですね。

 

――なかじまさんって本当はこういうゲームを作りたいのでは?アート寄りの。ギャルソンを着たり、写真が好きだったりしますし。

なかじま:
魅せるゲームを作りたいとは思ってます。絵に力を入れたりとか、音楽で泣けるゲームとか。

 
――いろいろお話を聞いていて、なかじまさんは自分が何かを表現して、それに対して誰かが反応してくれることが楽しいと感じるのかなと思いました。

なかじま:
そうかもしれないです。目立ちたがり屋なので。じつは中学生のころにニコ生で……(秘密)。

 
――そんななかじまさんが主催されているわけですから、Ichi Pixelでもゲームジャムを開催されそうですね。

なかじま:
やりたいです。楽しそうだし。

 
――ゲームジャム期待しています。Ichi Pixelは次で7回目をむかえます。これまで運営サイドはあれこれ考えて変化してきたと思いますが、来場者のほうも何かありそうです。

なかじま:
常連さんが増えてきたなあって感じます。今は常連さんと初めての方、だいたい半々くらいかな。そういえば、最近あまり学生さんを見ないのがさみしいですね。もっと来てほしいです。もっと若者も集まってほしいなって。あと女の子も!(笑)

 
――Ichi Pixelの開催によって関西のインディーシーンが大きく変化するんじゃないかとか、いろいろな期待がかかっていそうですが、意識していますか?

なかじま:
とくにしていないですね。Ichi Pixelで誰かと誰かがつながるというのが第一にあって、そこから新しい何かが生まれたらいいなっていう気持ちはあります。それに、わたしがどうこうできるわけじゃないし、その人の後押し的な何かになれたらいいかなっていう感じです。Ichi Pixelが土台になってくれればいいなって。

 
――あくまで「ゆるく」ですね。ありがとうございました。

 

[聞き手・写真: Shinji Sawa]

 
目の前にケーキがあれば写真を撮り、雪が降れば目を輝かせ、『Super Hexegon』を手渡せば没頭する、なかじまさんはふつうのゲーム好きの女の子だった。しかし彼女には行動を起こす力があるように思う。さまざまなイベントに顔を出し、制作途中のゲームを人に見せることも楽しんでいる。たとえそれが誰かの助けがあったからだとしても、そのつど何かを得ていると感じる。もしもあなたがゲーム開発者またはゲーム開発に興味を持っており、気の合う仲間が欲しいと考えているのであれば、Ichi Pixelのような集まりは手助けになってくれるかもしれない。

第7回Ichi Pixelは2月24日(金)、場所はいつもと同じ大阪・天六Bar Escaeにて開催。お暇な方は一度立ち寄ってみてはいかがだろうか。会場までの道順がわからなければ、こちらの動画をご覧あれ。

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