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中編では弊社代表イバイ・アメストイも加わり、前編に引き続きさまざまなお話をうかがった。会話の中で、山岡晃氏が持つ不思議な魅力や独特の考え方が垣間見えた。山岡氏は、手塚プロダクション×弊社アクティブゲーミングメディアの新プロジェクト『アトム:時空の果て』に、コンポーザーとして参加している。

 
――山岡さんは作曲の方法も特殊だと聞いたことがあります。

山岡氏:
譜面を書くようなことはしなくて、絵を描くことに近くて、色を乗せていってディテールを細かくしていくような感覚で作っています。普通の音楽家の方とは違う方法なんだろうなと思いますね。

 
――独学ですか?

山岡氏:
独学ですね。いまだにコードとか知らないですからね(笑)。なんとなく「Em」と「Am」はわかるかも(笑)。

 
――(笑)

山岡氏:
だからみんな作れますよ(笑)。

 
――いやいや、できないです(笑)。

イバイ:
スペインのパコ・デ・ルシアも音符を読めないんですけど、素晴らしいギタリストです。今回のプロジェクトに参加してもらったジョルジオ・モロダーも音符を読めないです。

山岡氏:
音符を読めない人ばかり参加している(笑)。

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――みなさん感性で作ってるんですかね。

山岡氏:
それを知りたいですよね。理論ではなくて。ド・ミ・ソってあるじゃないですか、これは音楽的に言うとメジャーコードなんですけど、ミを半音下げると短調っていうマイナーコードになります。多くの人がこのド・ミ・ソで、明るいとか楽しいとか落ち着きとかいろいろな感情を持つんです。でも半音さげると、悲しいとか寂しいとか感情が変わるんですよ。

本当かどうかわからないんですけど、地球上で一箇所だけ逆の国があるって聞いたんです。ド・ミ・ソを聴いたときに悲しいと感じて、マイナーになると楽しいと感じる。

イバイ:
北朝鮮ですか?

山岡氏:
インドなんです。聴いていて楽しいインドの音楽の歌詞を見ると、すごく悲しいんですね。逆にゆっくりした悲しいメロディーの歌詞は楽しいんです。逆なんですよ。音楽理論とは違うけど、なぜそうなのかを知りたい。いろいろと本を探しているんだけど、ないんですよ。誰もそれについて書いてないんです。

イバイ:
楽しい場面と悲しい場面でよく使われているから、繰り返し聴いて頭がそう覚えてしまっているとか?

山岡氏:
どうなんでしょうね。

「ラ」の音って音叉が1秒間で4万4100回振動するんです。もうすこし簡単に説明すると、たとえばの設定ですけど、「ド」の音が1秒間に1000回振動するとして、1オクターブ上がったら2000回になります。ではこれが3000回になったときって何かわかりますか?

 
――普通は倍音で上がっていくので、その間の「ソ」の音ですか?

山岡氏:
そうなんです。4000回が2オクターブ上の「ド」なんです。5000回が「ミ」なんですよ。ということは、ド・ミ・ソって人間には1個の音にしか聞こえなくて、だから安心感があるって言われているんです。でもなぜこれがズレるだけで、悲しいとか寂しいとか、音なのに感情を変えるのはなぜなんだろうっていうのを知りたい。

 
――それが万国共通だったら仕方ないってなりますけど、インドは逆なんですからわからないですね(笑)。

山岡氏:
そうなんですよね(笑)。

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――山岡さんは20代のころはけっこう遊ばれていたんですか?クラブに通ったり。

山岡氏:
ぜんぜん遊ばなかったですね。今もそうですよ。あまり好きじゃないんですよね。さっきのド・ミ・ソみたいなことを考えているほうが楽しいし、そういうことばかり話す友達と飲んだり食べたりするほうがいいですね。

山岡氏:
悪者と正義っているじゃないですか?たとえば戦隊物だとヒーローと悪がいますよね。それを考えたときに、正義って本当に正義なのかな?って思ったり。

 
――……?

山岡氏:
なぜかというと、悪者は新しい武器を開発して、組織を、社会を作って雇用するじゃないですか。人を雇って養って、新しい技術を開発していくわけですよ。そこに正義が現れて、バーンとやっつける。でも正義は平和なときは何もせずにボーッと暮らしていて、開発はしないし雇用もしないし、何も社会に貢献しないし。これってひょっとしたら、人類史上で最初に生まれたのは悪の組織なんじゃないかなって思って。実は正義が悪で、悪が正義なんじゃないかなと。そんなことを毎日考えています。それで、友達を呼んで、これってどう思う?って(笑)。

 
――(笑)。それにちゃんと付き合ってくれる方がいらっしゃるんですね。

山岡氏:
そうそう、いるんですよ。この話だったらこいつかな?って選んで電話する(笑)。

 
――お話を聞いていて、山岡さんには「逆の発想」みたいなものがつねにあるのかなと感じました。正義と悪の話とか、仕事を仕事と思わないとか。

山岡氏:
そうですね、つねに逆を考えるようにはしています。電車に乗ると、みんなスマートフォンを持って下を見てるじゃないですか、そうすると、もしかして逆に上に何かチャンスのようなものがあるんじゃないかと思って、ずっと上を見ていたりしますね。

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――そういう逆の発想から、Wedding Deathというバンドが誕生した?

山岡氏:
Wedding Deathやりましたね。普通は結婚式って愉快な音楽をやるけど、そこでデス・メタルをやったら面白いんじゃないかって。極端ですけどね(笑)。

 
――(笑)。実際にやられたんですか?

山岡氏:
はい、何度かやってます(笑)。

 
――以前、「ギターソロの練習中です」というつぶやきと共に、ダンベルの写真をTwitterにアップされていましたよね。そんなわけないだろうと思って記憶に残ってるんですが、あれも逆の発想的な?

山岡氏:
ありましたね(笑)。けっこう昔ですよね。コナミに勤めていたときに『サイレントヒル』をやりつつ、DS向けにヨガとかピラティスのソフトを作っていたんですよ。

 
――なるほど、そういう背景があったんですね。体を鍛えることは好きなんですか?

山岡氏:
K-1が流行していたころに、スポーツのコーチに「魔裟斗を倒すにはどうすればいいんですか?」って聞いてみたら、「まずは持久力をアップして~」と、鍛え方とかいろいろと教えてもらったんです。それで実際にやってみたらすぐに身体に結果が出て、こんなにすぐに変われるんだっていうのが面白かったんです。身体を鍛えていると、普段疲れないというのもあって、コンサートの長いツアーに備える意味でも、週に1回とかのペースでジムに行きますよ。

 
――ということは、あのダンベルは本当だったと。

山岡氏:
そうです、実際にやってますよ。

イバイ:
自宅でも鍛えられてるんですか?

山岡氏:
自宅ではさすがにやらないですね。ジムに通ってます。

 
――スポーツはいかがですか?

山岡氏:
ジムに行くぐらいですね。僕、小中高とスピードスケートをやってたんですよ。親父がスケートをやってたんで一緒に。あとは自転車とか。

 
――そういえば、トライアスロンにチャレンジされるとか。

山岡氏:
そうなんです、誘われたんですよ。「ええ?!トライアスロンって人を誘うの?!」ってびっくりしましたよ。「飲みに行こうよ」とかならわかりますけど(笑)。

 
――(笑)

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イバイ:
山岡さんの好きな音楽の歴史を知りたいです。

山岡氏:
中学一年生ぐらいにYMOがデビューして、シンセサイザーの音楽がすごく面白いなって思っていました。ただどちらかというと、音楽自体も面白いんだけど、YMOのスタイル、人民服を着て、イエローモンキーという言葉をわざと使って、外国人からすれば日本人も中国人も判断できないということをわかっていながらやったじゃないですか。そんなエンターテインメントの手法がすごく面白くて。

それから、海外で同じようなものがあるのかって探して、ニュー・ウェーブに出会いました。ニュー・ウェーブって音楽もそうだけど、ファッションとかビジュアル的な要素、あとはライフスタイル、そういうものが一緒になっているところにすごく惹かれたんです。そこからですよ、音楽を好きになっていったのは。Depeche Mode(デペッシュ・モード)もそうだし、エレクトロニックのミュージックって「俺たちは一般的な音楽とは違うんだぞ」みたいな雰囲気があって、あえて違うことをやるスタイルがすごく面白く感じました。

イバイ:
なるほど。

山岡氏:
あとはラウドロックとかも。

イバイ:
Metallica(メタリカ)は?

山岡氏:
大好きですよ。でもメタリカはどちらかというとエンニオ・モリコーネがすごく好きで、メタルとウェスタンな雰囲気が面白いうというか、哀愁があるというか。

イバイ:
ちなみにはずかしながら私がエンニオ・モリコーネのことを知ったのは、ジェームズのインタビューでした。そこで「これがウェスタンなんだ」と知ってハマりました(笑)。

山岡氏:
あはは、僕も同じような感じですよ(笑)。

イバイ:
今はどのようなジャンルの音楽を聴いているんですか?

山岡氏:
毎日違いますね。昔のも最近のも年代問わず聴きますよ。Adele(アデル)も聴きますし、Sia(シーア)も大好きだし、そのときに聴きたいものを聴く感じですね。

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イバイ:
最近発見したお気に入りのバンドはありますか?

山岡氏:
けっこういますね。iTunesに全部入れてあるんですけど。

イバイ:
iTunesを使われているんですね。

山岡氏:
ラジオをよく聴くんです。気に入ったチャンネルをRECして寝て、朝起きたら大量のMP3が出来上がってるわけですよ。それをiPodに入れて、仕事に行く途中にずっと聴いてます。

イバイ:
すこし話がずれますが、Appleは音楽業界に大きな影響を与えましたよね。それに関して何か思われることはありますか?

山岡氏:
手軽に音楽を聴けるようになったというのはありますけど――今までだと音楽を聴く人に届ける方法はCD・レコード、あるいはラジオだったけど、そこにiTunesが加わった感じですね。届け方は変わったけど、人の音楽の聴き方というもの自体は変わってないなと。お店に行ってお米を買うのと、Amazonで買って自宅に届くというのと変わらないですよね。変える必要はないのかもしれないですけど、僕は音楽の聴き方を変えられたらすごくいいなと思います。

イバイ:
なるほど。山岡さんが20代のころは、作った音楽を人に届けるために、どのような方法をとられていたんですか?

山岡氏:
コンテストですね。音楽を作って応募してというのをずっとやってました。当時は良い楽器を持ってなかったけど、毎回何かの賞をもらってましたよ。そこで、音楽を作るのって面白いなって感じるようになりましたね。

イバイ:
自分が音楽でやっていけると感じたのは、いつごろですか?

山岡氏:
最近じゃないですかね。

イバイ:
いやあ、そんなことはないでしょう?

山岡氏:
コナミに入ったのが20代前半ぐらいで、それから『サイレントヒル』とかやってきましたけど――本当は今でも自分は音楽でやっていけるって思ってないかも(笑)。

僕は音楽じゃなくていいんですよ。明日からコンビニの店員でもいい。

イバイ:
ええ?

山岡氏:
明日からコンビニでも牛丼屋さんでもどこでもいいんです。ただ、どこであっても一番を目指します。一番を目指すことが面白いんじゃないかなと思うんです。

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[聞き手: Shinji Sawa]
[写真: Mon Gonzalez]

後編につづきます。


山岡晃氏も参加する、手塚プロダクション×弊社アクティブゲーミングメディアの新プロジェクト『アトム:時空の果て』は現在、MakuakeKickstarterにてクラウドファンディングを実施中。日本が誇るクリエーターがリデザインした手塚治虫作品のキャラクターを、ぜひ一度見てほしい。

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ゲームはジャンルを問わず遊びますが、1回のプレイ時間が短いものが好きです。FPSやRTSは対戦モノを積極的にプレイします。しかし緊張するとマウスを持つ手が震えるタイプでもあります。